音楽と共に生きる - Spencer Bernard & Lisa Kiethの今
前途有望なアーティストがまさにこれからという時期に業界から姿を消す。エンターテインメントの世界では珍しくない。
人生にとって必要なものは何か。世間的な華やかさはなくとも、つつましく、より人間らしい生き方を求めて、次のステップに進むことも一つの選択だ。
エンターテインメントの業界を離れても、その後の人生のほうが長く、アーティスト活動は人生の中のほんの1ページに過ぎない。
今回は、若くして音楽業界で羽ばたき、早くに業界を引退したある夫婦を紹介したい。
目次
Spencer & Lisa
(source of photo: spencerandlisa.com)
二人の中年の男女が見つめ合い、ほほえんでいる。
写真からも強い信頼関係で結ばれた素敵な関係であることが伝わってくる。
二人の名前は、Spencer Bernard & Lisa Keith
この名前でピンとくる人は非常に少ないだろう。
もし知っているとすれば、30代後半以降でよほど思い入れがあるか、音楽好きだと思われる。
Lisa Keithはシンガー、夫であるSpencer Bernardは作曲家であるため、メディアへの露出はLisaのほうが多かったと思われる。夫婦で活動していたため、アコースティックのLiveだと二人で出演しているシーンが多かったようだ。
Profile
彼らのプロフィールを振り返ってみたい。
Lisa Keith、Spencer Bernardは、アメリカ・ミネソタ州ミネアポリスの出身で、現在50代後半、還暦まであと少しという年齢だ。
二人は高校時代からカップルでありながら、音楽のパートナーとしても活動を開始し、その後も公私ともにパートナーとして活動していくことになる。
1981年にミネソタ州の音楽コンテストで優勝したのを皮切りに、音楽デュオとして、時にはソロとして幅広く活動していった。
主に、LisaはSpencerの作曲した曲を歌い、1985年には現在でいうAmerica's Got TalentのようなStar Searchというオーディション番組にも出演している。その美貌と歌唱力は、ひときわ目を引くものがある。
Jam & Lewisとの出会い
アメリカで最も成功したプロデューサーの1組と言われるJam&Lewisと出会うことになる。Jam & Lewisのすごさといったら、Janet Jackson、Michael Jackson、Beyonce、Mary J Blige、、Mariah Carey、Chaka Khan、日本でも宇多田ヒカル「addicted to you」「Wait&See ~リスク~」など、プロデュースしたアーティストを挙げれば、知らない人はいないというほどの実績を持っている。
これまで何度となく、手がけた作品やアーティスト、自身もグラミー賞を受賞している。
彼らの音楽レーベル、Flyte Tyme Productionの中でLisaは、バックボーカルとして、Spencerは作曲家として関わっていくようになる。
代表的なところでは、1986年に発表されたJanet Jacksonの大ヒットアルバム「Control」が挙げられる。
このアルバムの中でSpencerはHe Doesn’t know I’m Aliveを提供している。爽やかなディスコっぽいトラックがなんとも言えない心地よさがある。
SpencerとJam & Lewisのタッグが見事にハマっている印象。Lisa Keithもボーカルアレンジ、バックコーラスとして参加し、夫婦で良い仕事をしている。
個人的には、このアルバムでは、Let’s wait Awhileが特に好きな一曲。
この曲をサンプリングしたBig-punのhow we roll 98も思い出深い。
SaxプレイヤーのEverette Harpによるカヴァーも非常にムーディーで秀逸な仕上がり。
この後もJanet Jackson & Herb Alpertの「Diamonds」、「Making Love in the Rain」ではリードボーカルとして参加するなど、R&B畑のアーティストのバックボーカリストとして仕事の幅を広げていった。
当時は、バックボーカリストと経験を積みながら、デビューアルバムを出すケースはわりと多かったように見える。
Making love in the Rainを聞くと、やはり、この曲をサンプリングしているBone Thugs - Days of our livesを思い出さずにはいられない。
この時期、Jam&Lewisは飛ぶ鳥を落とす勢いで、そのお抱えシンガーであるLisaがバックボーカルとして参加した作品は数えきれないほどある。
なお、Lisa Keithはポップミュージシャンではあるものの、参加した作品を見てみると、R&Bミュージシャンでの仕事が多い。
Jam&Lewisの手がける楽曲がR&Bであることが大きいが、それだけでなく、歌唱力、Spencerの作曲家として力、二人のデュオとしてのソングライティングの才能ゆえの活躍であったといえる。
最初で最後のソロアルバム
二人は、Jam & Lewisの元で、多くの経験を積み、1993年に満を辞してLisaのソロアルバム「Walkin’ in the sun」をリリースする。残念ながら、最初にして最後のソロアルバムになってしまうのだが、このアルバムは今聴いても名盤だと思う。
Jam & Lewisプロデュース、リリースされたレーベルもJam Lewis主催のPerspetive Records、という全面的にJam & Lewisのサポートの元にリリースされている。
シングルカットされた「Better than you」は36位、クラブ向けなR&Bテイスト「I’m in love」は、84位と、ビルボードチャートにランクインしている。
リリース時にはプロモーションで来日しており、TVに出演した際に披露したI’m in loveのアコースティックバージョンが素晴らしい。Spencerの伴奏で伸び伸びと歌うアコースティックバージョンはダンストラックとは一味違った魅力があり、これこそがSpencer & Lisaの本来の魅力のように見える。
I’m in love(acoustic version)
このほか、「Sunshine Daydreamin’」、「Love for All Seasons」など爽やかで聴きやすいR&Bも収録されている。
Jam & Lewis色の強いR&Bテイストの曲は、当時は好んで聴いており、今でも好きな曲だ。改めて、このアルバムを通して聴いてみると、年齢を重ねたのか、「Walkin’ in the sun」、「World of Joy」と言ったミディアムバラード、バラードの楽曲の良さに気がつく。
メジャーデビューから一転
ようやくデビューアルバムをリリースし、TV、Live、次の作品の制作へと向かおうとしている時に変化が訪れる。LisaがB型肝炎にかかり、多くの仕事をキャンセルすることになってしまったのだ。
そこで彼らは自分自身の音楽活動を見つめ直すことになる。どちらかといえば、ポップス中心の音楽性だったが、元々はカントリーミュージックなどを好んでいたこともあり、96年にテネシー州のナッシュビルで生活することを決めた。
さらにその2年後、音楽業界から離れることを決意し、子育てに専念するために、地元のミネアポリスで生活することを決断する。
現在の活動
SpencerはEvergreen churchという協会で牧師、ギターの先生、音楽ディレクターとして働いている。Lisaは、子育てに専念していたが、手が離れたため、ホームスクールの聖歌隊を指導したり、歌唱指導などもしているようだ。
二人は再び楽曲の制作、Liveを開始している。たらればを言ったらキリがないことは確かだが、継続して活動していたら、おそらく多くのヒット曲をリリースしていただろう。しかし、病気や自らの音楽性を見つめ直すことによって、本当に自分に必要なものは何か、そんな決断を早くできたからこそ、最初に掲載したような素敵な写真の二人がいるのではないだろうか。
Spencer Bernardの本人のアカウントと思われるYoutubeチャンネルには直近の二人のLiveや昔の音楽番組出演時の動画がアップロードされている。
http:// https://www.youtube.com/watch?v=4KzfQ49mMhc
Dynamic Duoというチャンネルに掲載されている二人のインタビューも実に興味深い。ちなみに、他の動画でアップロードされているTerry Lewisのインタビューも実に面白い。
Spencer & Lisaは、音楽業界の第一線から早く身を引いて、自由気ままに音楽を楽しんでいる。
COVIT-19による世界中に大きな影響が出ている。さまざまな施作が実行され、少しづつ前に進んでいるが、まだ先が見えない状態がつづいている。このような状況で何ができるのか。人生観を見つめ直すような感覚を持っている方も多いのではないだろう。
SpencerとLisaのその後の人生を追いかけてみて、今自分にとって必要なことが何かを感じさせてもらった気がする。
自宅で時間を持て余している人がいたら、昔気になっていたアーティストなどについて調べ直してみると、新たな発見があるかもしれない。
(D)